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鏑木蓮・救命拒否 [シルバーウィングでGO]

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鏑木蓮の「救命拒否」を読んだ。殺人事件の背景は大規模事故事件で行われるトリアージという患者の選別,言い換えれば救う命の選別問題だ。救急医学をテーマにした非常に深刻な小説だ。
トリアージはふたつの爆発事件で行われた。一度目はスーパーで起こった爆発事件。若い女性が巻き込まれ,トリアージでブラックタグをつけられる。ブラックタグをつけられたものは救命の見込みなしと判断され,救命のための救急医療の対象からはずされる。亡くなった女性の家族は,ブラックタグをつけた若林医師を強く恨んだ。その若林医師が狙われたと思われる二度目の爆破事件が起こる。息絶える直前の若林医師の言葉は「ブラックタグ」。それを聞いた救急救命士の中杢(ナカモク)は,自分にブラックタグを付けよという若林医師の意思表示だろうと証言する。意志のある被害者にブラックタグをつけるという矛盾も中杢に対する疑い発生の一因だ。
中杢は一度目の爆発事件の時も爆発現場で若林医師とともに救急の仕事をしていた。そのとき,亡くなった女性に若林医師がブラックタグをつけたのは,現場で若林医師がもたもたして患者のそばに来るのが遅くなったからだと親友に打ち明けている。
捜査本部は亡くなった女性の婚約者だった笹岡が犯人の可能性が高いとみて捜査を絞り込むが,別の刑事たちは救命士の中杢が犯人の可能性があるとして捜査を行う。中杢が同窓会の席で酩酊して「自分につけろ」と言ったという聞き込みあたりから,読者も刑事とともに推理・筋立てをしたくなる展開だ。
ホンボシは中杢かと推理される中で笹岡の犯行を裏付けるような情報がもたらされる。しかし,爆発の目的は自殺だった。中杢の同級生久保が意図的に若林医師を爆発に巻き込んだのが真相だった。久保はその爆発で死ねず病院に収容されている。
さて,トリアージについてもう一度考えてみると,神ならぬ人間のすることだから,どうしてもミスは避けられない。そうであったとしても,少しでも犠牲者を少なくしようと言うドライな知恵と言っていいだろう。一般の救命率8%に対して,40%の救命率を誇る若林医師も誰かを助けるために誰かの命を見殺しにしてきたわけだ。若林医師が自ら死を選んだのは,ブラックタグをつけることがいかに苦悩に満ちた行為だったかということだろうか。
なお,28日朝の川崎市登戸無差別殺傷事件の現場に駆けつけた医師は,既にトリアージが終わった後だったと言っていた。たぶん,ブラックタグをつけられた被害者はいなかっただろう。そう願う。かなり酷い状況であっても心肺蘇生の手立ては尽くした筈だ。
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