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今野敏「化合」と冤罪 [シルバーウィングでGO]

久しぶりに今野敏の「化合」という刑事物を読んだ。ベテランの刑事と組んだ若手の刑事の目線が中心だ。一見やる気のなさそうなベテラン刑事が次第に本来の刑事魂を見せ始め,若手の刑事が目を開かれていく。ベテラン刑事の経験と若手刑事の熱意が,冤罪を作りだしかねない検事の独走を何とかくい止め,ねばり強い捜査によって真犯人にたどり着くのだが,捜査初期の刑事の言葉に驚かされる。刑事事件で起訴されると99%有罪にされるが,その有罪の中には微罪まで含めると冤罪だらけだという述懐だ。
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検察官が有罪だと判断すれば,警察の仕事は有罪のための証拠集めだけになる。現場の捜査員が有罪を否定するような証拠を探してくると,下手をすると命令違反で処分の対象になることさえあると記されている。結局,警察官は長い間に事なかれ主義の捜査員に墜落しいていくわけだ。
さて事件経過だ。任意で取り調べを受けていた被疑者が,捜査が真犯人にたどり着きそうな段階になって検事の取り調べに屈し,「自白」してしまう。いったん自白してしまえば,検事は鬼の首を取ったように勝ち誇る。現実の世界では,ジエンドだ。
しかし,この後は現実の警察とは違う今野敏の警察の世界だ。刑事達は自白を覆すために昼夜の捜査を続け,ついに思いもかけなかった真犯人を逮捕する。そこには,正義感にあふれる警察官像が描かれる。
昨日松橋事件再審無罪になった宮田さんは高齢で寝たきりのため,裁判所で無罪判決を聞けなかったそうだ。認知症を患いながらも,宮田さんは無罪判決の報に涙を流したという。涙は宮田さんの喜びだったのか,悔しさだったのか。いずれにせよ,証拠を隠した検察官も有罪を確定させた裁判官も責任を問われることはない。沈み込むようなソファに座り,何食わぬ顔をしてぬくぬくした人生を終えるわけだ。
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